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長野家庭裁判所飯田支部 昭和51年(少)73号 決定 1976年5月26日

少年 J・J(昭三〇・一二・一八生)

主文

少年を二二歳に達するまで特別少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は昭和四五年ころから窃盗、無免許運転非行を持続して犯してきたため、昭和四八年一〇月一七日には当支部において、無免許運転と業務上過失傷害の各非行により保護観察に処せられ、担当保護司原孫蔵の指導監督を受けはじめたのであるのが、その後間もなくしてからいわゆるシンナーの吸飲とシンナー仲間との交遊関係がみられ、そのことから昭和五〇年二月二六日当支部において、毒物及び劇物取締法違反非行により再度保護観察に処せられ、保護観察を実施するに当つての遵守事項としても「シンナー等の吸飲は絶対にしないこと、定職に就き規則正しい生活をすること、母、兄、姉に心配をかけるような行動を一切やらないこと」などが定められ、更生するよう強く期待された。

ところが、少年はこれに応じて更生しようとする態度を示さず、ほとんど無為徒食の状態でシンナー仲間と交遊してシンナー吸飲を続け昭和五〇年四月一九日から同年五月一四日までと同年一一月二七日から同年一二月一六日までの二回にわたり、シンナー依存傾向の解消を図るため、飯田市○○○××番地所在の○○病院に入院さえしたのにシンナーに対する依存傾向は解消されるどころか増すばかりで、入院中の病室でも自宅でも単独でシンナーの吸飲をやる程に依存傾向が強度となつてきており、そのため昭和五一年四月七日飯田簡易裁判所において、毒物及び劇物取締法違反罪により、略式裁判で罰金二万円に処せられたのに、その後においてもシンナーの吸飲を続け、同月二三日には飯田警察署に検挙されている。

以上のとおりであつて、少年は保護者の正当な監督に服しない性癖と自己の徳性を害する行為をする性癖のあることを示したものであるところ、少年の毒物及び劇物取締法に違反するシンナー吸飲と、この持続によつて形成されたシンナーに対する相当強度の依存傾向は、欲求不満に対する耐性が弱く、すぐに挫折してしまい、その気晴らしに快楽追求的行動に走りやすい少年の性格や近くにシンナー仲間がおり、それとの交遊関係は相当に深く、母の溺愛的な養育態度の影響もあつて、これとの関係を解消することは相当に困難であることなどの環境を考慮すると容易に解消されるものではなく、少年にはこれからも毒物及び劇物取締法に違反するシンナー吸飲を中心としてこれに直接、間接に関係する犯罪を犯す虞がある。

(適条)

ぐ犯非行 少年法三条一項三号イ、ニ

(処遇)

少年は前記のとおり昭和五〇年二月二六日当支部において、毒物及び劇物取締法に違反するシンナー吸飲をしていたことにより、保護観察に処せられたのに、その後における保護観察の実施や入院治療を受けてもシンナーに対する依存傾向が増すばかりで、略式裁判で罰金に処せられ、さらにはその後においてもシンナーを吸飲していて警察官に検挙されたこともあつたため、保護観察所の所長から犯罪者予防更生法四二条一項によりぐ犯通告されたものである。

ところで、少年のシンナーに対する依存傾向は前記の経過によつても明らかなごとく、在宅のままでの社会内処遇によつて解消を図ることはほとんど困難な位に強度なものとなつていることが認められるのであつて、これに少年鑑別所に収容されている少年に煙草を差入れるような母の常識を欠くとも思料される保護能力を考慮すると、在宅のままで少年の更生を図ることは困難であると云わざるを得ないところである。

よつて、少年を二二歳に達するまでの約一年七ヶ月間特別少年院に送致し、逃避することのできない集団生活を通してその性格の改善と共にシンナーに対する依存傾向の解消を図ることとし、犯罪者予防更生法四二条、少年法二四条一項三号を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 中山博泰)

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